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ライバル企業が、自社の特許権を侵害する疑いのある製品を製造していたらどうすればいいの?
特許権の侵害とは
特許権は、特許出願の際、願書に添付した特許請求の範囲(クレーム)に及びます(特許法(以下省略します)70条1項)。貴社の発明のクレームを「AとBを備える装置」と仮定します。この場合、ライバル社の製品が、AとBを備えていれば(例:「AとBとCを備える装置」)、貴社の特許権を侵害することになります。
特許権の侵害に対して何ができるか
特許権者は、自己の特許権を侵害する者に対して、その侵害の停止又は予防を請求することができます(100条)。貴社は、ライバル社に対し、自社の特許権を侵害する製品の製造の差止めや製造設備の除却を請求することができます。また、ライバル社が、貴社の特許権を侵害する製品を販売したせいで、貴社の売上が下がってしまった場合には、損害賠償を請求することもできます(民法709条)。
実際にどう対応すべきか
ア 特許権を行使するには、特に裁判をすることになれば、かなりの労力と費用が必要です。そこで、自社特許発明の実施製品が、自社の主力製品か人気のない製品なのかといった自社の事情や、ライバル社の製品がシェアを伸ばしているのか売上が低調なのかといったライバル社の事情、ライバル社がどのような反論をしてくるかを考慮した上で、対応を判断することになります。
イ 権利行使を選択した場合、通常は、ライバル社に対して、警告書を発することになります。ライバル社も通常は、わざわざ訴訟にまでしたくないため、警告書の段階で、自主的に製造を中止することが多いと思われます。
しかし、ライバル社が、①当社製品は特許権を侵害していない(例:「AとCを備える装置である。」、「AとB‘を備える装置である。」)、②貴社特許は無効であると考えて、警告に応じず、交渉をしても態度を変えない場合は訴訟を考える必要があります。
ウ さらに、本当に自社の特許権に無効原因がある(例:出願時にすでにあった発明から、当業者が簡単に思いつけたものである(進歩性の欠如、29条2項)等)と思われる場合には、別途対応を考える必要があります。
クレームを縮減することで無効原因を解消でき、かつ縮減後のクレームにライバル社製品が含まれれば、訂正審判を申立てます。(126条)。
クレームを縮減しても無効を免れない場合は、ライバル社と争うことで、ライバル社が無効審判を請求してしまえば(123条)、貴社特許権が無効となり、ライバル社どころかすべての企業が貴社の発明を利用することができるようになってしまいます。そこで、無効になるくらいなら、ライバル社にライセンスを与えて(77、78条)、共存を図るといった対応を考える必要があります。
特許侵害に対する対応は複雑ですので、特許問題に関するご質問等はお気軽に当事務所の弁護士にご相談ください。
執筆者 弁護士 吉村 航
プロフィール
広島県出身。修道高校卒業、東京大学法学部第一類卒業、東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了。2018年9月司法試験合格、2018年11月最高裁判所司法研修所入所、2019年12月司法修習終了後、広島弁護士会に登録。山下江法律事務所に入所。2020年7月山口県弁護士会に登録替え、岩国支部長就任。2023年12月広島弁護士会に登録替え、広島本部勤務。