会社を解雇されるということは、人生設計そのものの変更を余儀なくされることでもあります。
ここでは、
- 解雇の種類
- 懲戒解雇と整理解雇、退職金の違い
- 退職金を減額する要素
について解説していきます。
解雇の種類について
解雇の種類は、大きく分けて下記の3つに分類されます。
- 普通解雇
- 整理解雇
- 懲戒解雇
1つずつみていきましょう。
普通解雇
もっとも一般的な解雇のかたちです。「整理解雇」「懲戒解雇」以外の解雇が、この「普通解雇」に分類されます。そのため、「普通解雇」の根拠となる解雇事理由は多岐に及びます。
もっともわかりやすいのが、「病気によるもの」でしょう。病気療養のための休暇を取っていても状況が変わらない場合や、退院はしたものの大きな健康被害があって業務を続けることができない場合は、会社側から解雇を告げられることがあります。
また、業務に関する能力が著しく劣っていたり、業務に支障をきたすレベルで協調性がとれていなかったりした場合も解雇される可能性があります。ただこれは決して短期的に判断されるわけではなく、注意や改善の取り組みを行っても良くならない場合などに限られます。
整理解雇
「整理解雇」は会社側の事情で行う解雇をいいます。もっともわかりやすく、またもっとも一般的なのは、「業績が悪化したため、今まで雇っていた従業員を雇っておくことができなくなった」という理由です。
従業員を解雇しなければ会社の存続が難しいと判断されたときに行われるもので、リストラの一環ととらえられています。
ただ、整理解雇はすぐにできるものではありません。
まずは契約社員などの雇い止めを行い、退職を希望する人間を募ります。そのうえで、会社の内部でよく話し合い対象者を決めていきます。従業員を守る組合や従業員たちと話し合いを行い、そのうえで初めて整理解雇を行うことができるのです。
会社側の都合によって従業員の生活が大きく変わってしまう解雇形態であるため、
- 経営上、どうしても整理解雇が必要であると認められること
- 整理解雇以外の手段を講じたが、それでも経費を削減しきれないこと
- 感情的な理由ではなく、合理的な理由で整理解雇対象者を選んだこと
- 本人や組合と十分に話し合ったこと
の4条件を満たさなければ、整理解雇はできません。
懲戒解雇
「懲戒解雇」は、ほかの2つとは意味が異なるものです。これは文字通り、当人の不当な行いに対する罰として行われる解雇なのです。
懲戒解雇の対象となる理由としては、以下のようなものがあります。
- 正当な理由も断りもなく、長期間欠席をする
- 会社の品物やお金を横領したり、犯罪行為を行ったり、飲酒運転などを行ったりした
- 会社の名誉を著しく傷つける行為をした
- 経歴を詐称して入社したことが明らかになった(重大なもの)
- 立場を利用したハラスメント行為(パワハラやセクハラなど)を行った
- 欠席やハラスメント行為などを咎めても、同じことを繰り返した
このように、一口に「解雇」といってもその種類はさまざまです。
懲戒解雇と整理解雇、懲戒解雇だから退職金が少ないとは限らない
上記の例を見れば、「懲戒解雇の場合はほかの解雇と比べて、退職金の面でも冷遇されるのだろう」と考えがちです。しかし実際には、必ずしもそうとは言い切れない部分があります。
懲戒解雇=減額? 整理解雇=増額?
そもそも退職金の支払いについて社内の規定がなく,支給するかどうかも会社の判断に委ねられているような場合、原則として会社に対し退職金を請求することはできません。
他方、退職金について支給要件や支給基準等が就業規則等で定められている場合は、労働の対価としての賃金に該当し退職金を請求できます。退職金は、賃金の後払い的性格や功労報償(長年の功労に対するお礼)的な性格、退職後の生活を補償する性格を有していると言われており、単純な賃金とは異なると考えられています。
退職金を請求できる場合であっても、様々な事情により支給される額や支給の有無は変わってきます。
「懲戒解雇は会社や社会に対して悪いことをした末に行われるものだから、退職金も減額される」
「整理解雇は会社側の事情によるものだから、退職金は増額される」
このように考えている人も多いのではないでしょうか。
しかし実際には、「懲戒解雇だから退職金が減額される、整理解雇だから退職金が増額される」とは言い切れないのが現状です。
たとえば、「従業員が横領をした」という理由であってさえ、「退職金で被害を弁償しろ」ということは原則としては許されていません。このような場合は、「退職金を一度払ったうえで、改めて(元)従業員に対して損害賠償請求を行い、支払いを求めること」が正しいと考えられています。
減額になると決まっているわけではないが、減額になりやすい傾向にはある
もっとも懲戒解雇の場合は、「減額になると決まっているわけではないが、減額になりやすい傾向にはある」といえます。その理由については後述します。
また、整理解雇の場合も、「整理解雇だというだけで退職金が上乗せされるとまではいえないが、上乗せされる傾向にはある」とはいえます。
東京都産業労働局の出したモデルデータによれば、会社都合退職の場合は自己都合退職に比べて110パーセント~130パーセントほど多いということです。
出典:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(平成28年版)
なぜ退職金を減額することができるのか
退職金には、賃金の後払い的な性格があると説明しました。つまり、本来なら毎月支払われる賃金の一部を積み立てておいて、退職時にまとめて支払うというイメージです。こうすることで、従業員の退職後の生活を補償することができます。そうなると、勝手に減額することは認められないように思われます。
他方で、退職金には会社から従業員に対する功労報償的な性格もあります。長年にわたって会社に奉職し、利益を挙げてくれた従業員に対するお礼のような意味合いです。そうすると、問題情動を起こしたり、会社に損害を与えたりした従業員に対しては会社から功労報償的な退職金を支払う必要はありません。
そのため、懲戒解雇や会社に損害を与えたような従業員に対しては退職金を減額することができると考えられているのです。
退職金が減額される要素とは
上では、「懲戒解雇でも退職金は減額されないこともあるが、減額になりやすい傾向にある」としました。
ここからはその「減額される要素」について解説していきます。
就業規則に定めがある場合
就業規則に定めがあり、かつそれが正当なものである場合は、退職金が減額されることもあります。
たとえば、「2年以内に同業他社に就職したら退職金を返還させる」と就業規則を定めている会社に勤めていたにも関わらず、大勢の社員を積極的に勧誘して転職したうえ、それによって著しく会社の利益が失われた……などのケースでは会社側からの退職金返還要求が求められました。
減額についての根拠規定がある
「就業規則に書かれていれば、どのような事由であっても退職金の減額が認められる」とまではいえません。しかし退職金の規定に「懲戒解雇の場合は不支給とする」としていたり、減額の事由が定められていたりした場合は、退職金の減額が認められることもあります。
また、横領などを行った(元)従業員に対して一方的に会社側が退職金の減額を行うことは原則として認められていませんが、(元)従業員との合意があれば、相殺することも認められます。
会社への功労部分を差し引いてなお、退職金の減額が認められる事由がある
「長年にわたって会社に奉職し、利益を挙げてきた。しかし懲戒解雇にあたるような重大な背信行為を行った」という場合、その背信行為と今までの功労を比較して退職金の減額が認められることもあります。
このような事情が考慮されるため、「懲戒解雇になる=退職金がまったく支払われない」とまではいえませんが、「懲戒解雇になる=退職金は減額される可能性は高い」といえます。
退職金は、務めた年月などだけではなく、退職のかたちによっても左右されることは覚えておかなければなりません。