オンラインモールやアプリストアといったデジタルプラットフォームは、スマートフォンなどのデバイスやインターネット環境の進歩によって利用者を増やしています。昨今のコロナ禍において、これらデジタル市場に販路を見出す事業者も少なくない様です。急成長中の市場取引の透明性・公正性を向上させるために施行された「デジタルプラットフォーム取引透明化法」について、弁護士がわかりやすく解説します。
目次
デジタルプラットフォームとは
弁護士:コロナ禍でネットショップを使うことが増えましたね
女性:おかげさまで運営しているネットショップも好調です!この機に乗じて販路拡大のため大手オンラインモールへの出店を検討していますが、実際のところ、何に注意して出店を決断すればよいのかわかりません。
弁護士:そういうことでしたら、オンラインモールに出店する事業者の心配に応えるために、2021年2月に施行された「デジタルプラットフォーム取引透明化法」という法律を理解しておくとよいですよ
女性:デジタルプラットフォーム??初耳です!一体何のことですか?
弁護士:では、そこから説明していきますね
特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(以下では「デジタルプラットフォーム取引透明化法」と呼びます)では、デジタルプラットフォームの定義について同法2条1項で定めています。具体的には「オンラインモール」や「アプリストア」のことを指すのですが、それらを念頭に以下の説明を読んでみてください。
デジタルプラットフォーム取引透明化法2条1項を意訳すると、「デジタルプラットフォーム(DPF)」とは、ネット上で商品・サービスに関する情報を掲載する「場」を提供するサービスで、その「場」に商品・サービスの情報を掲載する人(提供者)が増えることで、その情報を受け取る人(被提供者)の利便性が高まり、被提供者が増えることで、提供者も増え…という関係ができるもののことをいうとしています。
「オンラインモール」や「アプリストア」を念頭に置きながら上の説明を読むと、何となく理解できるのではないかと思いますが、法律の条文は難しいですね。
オンラインモール
オンラインモールとは、インターネット上で商品やサービスを売るネットショップを集めたサイトのことです。オンラインモールの利用者は複数のショップから商品やサービスを検索し、比較して購入することができます。Amazonや楽天、Yahoo!ショッピングなどが有名です。
アプリストア
アプリストアとは、スマートフォンやタブレットのアプリを入手できるサービスで、アプリストアの利用者はアプリを検索し、比較して取得(購入)することができます。AppleのApp Store、GoogleのGoogle Playストアが有名です。
デジタルプラットフォーム提供者、特定デジタルプラットフォーム提供者
「デジタルプラットフォーム提供者」とは、デジタルプラットフォームを単独で又は共同して提供する事業者のことです。その中で、国内売上額が特に大きく、デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の自主的な向上に努めることが特に必要として、経済産業大臣によって指定されたデジタルプラットフォーム提供者のことを「特定デジタルプラットフォーム提供者」と呼びます。
2021年4月に特定デジタルプラットフォーム提供者に指定されたのは、以下の事業者です。
提供サービス | 事業者 | サービス名 |
---|---|---|
オンラインモール | アマゾンジャパン合同会社 | Amazon.co.jp |
オンラインモール | 楽天グループ株式会社 | 楽天市場 |
オンラインモール | ヤフー株式会社 | Yahoo!ショッピング |
アプリストア | Apple Inc.及びiTunes株式会社 | App Store |
アプリストア | Google LLC | Google Playストア |
デジタル広告市場
インターネットを利用していると、検索エンジンの検索結果画面やSNSの画面、様々なサイトに広告が掲載されていることに気づくと思います。こうしたサイト等に広告を出したい広告主は、GoogleやFacebookといった事業者が運営している広告サービスに登録する必要があります。広告サービス内では、あたかも「市場」のように多数の広告主が表示枠に掲載されるように競争して入札していますが、その競争のルール(=どの広告主の広告が表示されるか)は、事業主が設定しています。
こうしたデジタル広告市場も、オンラインモールやアプリストア同様、利用する広告主が増えれば増えるほど、広告の閲覧者にとっては自分に合った広告が表示されるようになり、閲覧者が増えるので、広告主もさらに集中するという関係にあるため、デジタルプラットフォームの一種といえます。
このため、2021年6月、政府はデジタル広告市場をデジタルプラットフォーム取引透明化法の対象に加えることを閣議決定し、現在、詳細について検討が進められています。デジタル広告市場への規制は世界初とみられています。
デジタルプラットフォーム取引透明化法施行の背景
女性:なるほど。デジタルプラットフォームという言葉は知らなくても、日常生活に馴染みのあるものですね。では、デジタルプラットフォーム取引透明化法はどうして作られたのですか?
弁護士:デジタルプラットフォームを利用する事業者や消費者が増えたことが背景にありますね
女性:私もそうですが、オンラインモールやアプリストアを使わない生活は今では考えられないですもんね
弁護士:デジタルプラットフォーム提供者も営利企業なので、自社が儲かるようにルールを作るのは当然ですが、行き過ぎてしまうと利用している事業者や消費者に悪影響を与えてしまいます。そこで一定のルールを決めて規制することにしたんです。詳しく説明しますね
現状の課題
デジタルプラットフォームは、そこに参加する事業者・消費者が増えれば増えるほど、多くの利用者情報や取引データを集めることができ、プラットフォームの提供者(プラットフォーマー)はこうして集めた膨大なデータを利用してさらにサービスを拡充することができます。オンラインモールやアプリストアで「あなたへのおすすめ商品」が表示されるのは、膨大なデータを利用したサービス拡充の一例です。事業者に対しても購買データをもとにした販促を提案できますし、配送や決済を一元化することでコストを下げることができます。こうして大手プラットフォーマーに事業者も消費者も囲い込まれ、他のサービスに移りにくい状況ができていくのです。
こうした状況自体が問題というわけではありませんが、プラットフォーマーがその地位を利用して特定の事業者(プラットフォーマーの関連会社など)を優遇したり、利用規約を一方的に変更し、同意しないとプラットフォームから排除するようになると、弊害が大きくなります。
課題解決の方策
上記のような問題への対応として、国がルールを定めてプラットフォーマーを規制する方法もありますが、デジタルプラットフォームの発展によって新たなビジネスや市場が生まれることが期待されることから、規制でがんじがらめにするのも望ましくありません。
そこで、デジタルプラットフォーム取引透明化法はプラットフォーマー自身が、その透明性や公正性の向上のための取組を自主的・積極的に行うことを求め、国の関与を最小限にとどめるようにしています。
規制内容
デジタルプラットフォーム取引透明化法は、特定デジタルプラットフォーム提供者に対して、①取引条件等の情報を開示すること(同法5条)、②特定デジタルプラットフォーム提供者とデジタルプラットフォームに商品情報を掲載する事業者(商品等提供利用者)との間の取引関係における相互理解の促進を図るために必要な措置を講じること(同法7条)を求めています。
以下では、取引先事業者と消費者に分けて、開示しなければならない事項や特定デジタルプラットフォーム提供者が講じるべき措置について説明していきます。
商品等提供利用者に対して
商品等提供利用者に対しては、以下の項目を開示しなければならないとされています。
主な開示事項
- プラットフォームの利用条件を変更する場合、その内容と理由
- プラットフォームの利用を拒絶することがある場合、その判断基準(例:強制解約事由、出品に係る審査基準等)
- プラットフォームの利用に併せて商品の購入や他の有償サービスの提供を受けることを要請する場合、その内容と理由
- 商品等の検索順位を決定するために用いられる主要な事項(例:販売数、購入者の評価、広告費支払いの有無等)
- プラットフォーマーが取得・使用するデータの内容と取得・使用の条件
- プラットフォーマーが保有するデータを商品等提供利用者が取得・使用することの可否とその範囲、方法等
- 価格や送料などについて、他の提供経路と同等以上の提供条件を求める場合、その内容・理由
- 返品・返金の負担を負わせる場合、その内容・条件
- 問い合わせ、苦情等への対応に関する事項
講じるべき措置の例
- 取引の公正さを確保するための手続・体制の整備
- 苦情処理・紛争解決のための体制整備
- 取引先事業者の事情等を理解するための仕組構築
消費者に対して
消費者に対しては、以下の項目を開示しなければならないとされています。
主な開示事項
- 商品等の検索順位を決定するために用いられる主要な事項
- 消費者が商品等を検索・閲覧・購入した際の履歴等のデータが取得・使用される場合、そのデータの内容や取得・使用の条件
オンラインモールやアプリストアを利用する際、検索結果の表示順がおかしかったり、知らない間に自分の情報を利用されるということがあると、たとえ便利なサービスであってもデメリットのほうが大きくなってしまいます。デジタルプラットフォーム取引透明化法は、プラットフォーマーに情報開示を義務付けることで、消費者が自分の判断で利用するデジタルプラットフォームを選択することができるようにしているのです。
規制の実効性を高める仕組み
上記の規制の実効性を高めるため、開示事項について開示しない場合、経済産業大臣は開示するように勧告し、それでも開示しないときは開示するように命令することができます(同法6条)。この命令にも従わなかったときは100万円以下の罰金に処されます。
また、特定デジタルプラットフォーム提供者は、実施した措置や事業の概要について、自己評価を付した報告書を毎年度提出することが義務付けられています(同法9条)。国は特定デジタルプラットフォーム提供者から提出された報告書をもとに、その運営状況について、取引先事業者や消費者、学識者等も関与して評価を実施し、その結果を公表することで、プラットフォーマーに改善を促しています。
独占禁止法との関係
女性:オンラインモールでは商品を買う側の消費者が護られているだけでなく、商品を売る側の販売者も安心して出店できる環境が整ってきているのですね。そして、国もこういったオンライン取引の将来性に期待を寄せているからこそ、デジタルプラットフォーム取引透明化法の施行に至ったのですね。
ところで、大企業がその立場を利用して取引先に圧力をかける、みたいなことって、デジタルプラットフォーム以外にもありますよね。そういうのって、法律で禁止されていませんでしたっけ?
弁護士:よくご存じですね。独占禁止法という法律で、「優越的な地位の濫用」を禁止しています。
女性:その独占禁止法とデジタルプラットフォーム取引透明化法って、どういう関係になるのですか?
弁護士:独占禁止法違反となるような行為を未然に防ぐために、デジタルプラットフォーム取引透明化法があるのですが、詳しく説明しますね
プラットフォーマーがその立場を利用して、取引の妨害をしたり、義務のないことを強制した場合は、独占禁止法違反となります。しかし、独占禁止法に基づき排除措置命令や課徴金納付命令といった処分をするためには、厳格な手続が求められており、技術やビジネスの変化が激しいデジタルプラットフォームの世界では、手続を待っていては被害の拡大を食い止められないという可能性があります。
そこでデジタルプラットフォーム取引透明化法では、プラットフォーマーに独占禁止法違反に該当しそうな事項について開示義務を負わせて違反行為を未然に防ぐとともに、経済産業大臣に公正取引委員会への措置請求権を認めています。
公正取引委員会への措置請求
公正取引委員会への措置請求とは、経済産業大臣が独占禁止法違反のおそれがあると認められる事案を把握した場合には、公正取引委員会に対し、同法に基づく対処を要請できる仕組みのことです(同法13条)。
特に、①プラットフォーマーの不透明・不公正な行為が多数の商品等提供利用者に対して行われていると認められるとき、②プラットフォーマーの不透明・不公正な行為によって商品等提供利用者が受ける不利益の程度が大きいと認められるとき、③デジタルプラットフォームの透明性及び公正性を阻害する重大な事実があると認められるときには、必ず要請するものとされています。
措置請求を受けた公正取引委員会は、審査を行い、独占禁止法違反が認められれば、排除措置命令や課徴金納付命令といった処分を行います。
デジタルプラットフォームに関するその他の法律
女性:デジタルプラットフォームについて、他に規制する法律はありますか?
弁護士:公正取引委員会が2019年12月に「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」を発表し、プラットフォーマーが個人情報を不当に取得したり、不当に利用した場合には、独占禁止法の「優越的な地位の濫用」の問題となる可能性があり、国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる事案については、優先的に審査を行うと表明していますね。また、最近、消費者保護の観点から新たな法律が成立しました。
取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律
オンラインモールなどの取引デジタルプラットフォームで危険商品等の流通や販売業者が特定できず紛争解決が困難となる等の問題が発生していることを踏まえ、①内閣総理大臣がプラットフォーマーに危険商品等の出品削除を要請する制度、②プラットフォーマーに対する販売業者に関する情報の開示請求権、などを定めた「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案」が2021年3月に国会に提出され、可決・成立しました。2022年5月までに施行される見込みです。
デジタルプラットフォーム取引相談窓口
女性:お話をうかがって、オンラインモールへの出店意欲が高まってきました。デジタルプラットフォームの利用について、どこか相談できる窓口はありますか?
弁護士:公益社団法人日本通信販売協会及び一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラムが経済産業省の委託を受けてデジタルプラットフォーム取引相談窓口を設置しています。取引上の課題等に関する悩みや相談に専門の相談員が無料で応じ、アドバイスをしてくれるので利用してみるとよいでしょう。
上記以外に、経済産業省や公正取引委員会も相談窓口・情報提供窓口を用意しています。
まとめ
今回はデジタルプラットフォーム取引透明化法について解説しました。コロナ禍の影響もあり、ECサイトに活路を見出そうとする企業も増えています。自社でECサイトの開発が難しい事業者にとって、オンラインモールは便利なサービスですが、プラットフォーマーの力が強く、事業者に不利な契約になりがちです。デジタルプラットフォーム取引透明化法の開示制度や相談窓口を利用して、上手にデジタルプラットフォームを活用し、事業の成長につなげていきましょう。
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