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知っておきたい「グレーゾーン解消制度」~新規事業を安心して始めるために

山下江法律事務所

 新規事業を開始するに当たっては、その内容の適法性を調べる必要があります。どのような事業も法律や規則と無関係ではなく、事業によっては許認可が必要なものもあります。では、計画している事業の適法性が判然としない場合はどうすれば良いのでしょうか?この様な時に役に立つ「グレーゾーン解消制度」について弁護士がわかりやすく解説します。

目次

グレーゾーン解消制度とは

男性:新しく事業を始めることにしたのですが、既存の事業とは全く異なる仕組みなので、何かの規制に引っかかってないかと心配で。私も少し調べてみたのですが、法律って、どうしてあんなに難しい書き方をしているんですかね…。

弁護士:確かに独特な言い回しが多いので、慣れないと読みにくいですし、解釈の余地を残すためにわざと曖昧に書いていることもあるんですよ。新規事業が何かの法律に抵触していないかの調査は、私たちでも対応できますよ。

男性:そうなんですね!弁護士に依頼できることだなんて思ってもみませんでした。ぜひお願いします。

(数週間後)

弁護士:…以上が今回の新規事業の適法性に関する調査結果となります。基本的に問題ないと思いますが、既存のガイドラインや裁判例などを確認してもはっきりしない部分があるので、念のため「グレーゾーン解消制度」を利用して管轄官庁に確認しようと考えています。

男性:弁護士の先生でもわからないことがあるんですね。「グレーゾーン解消制度」って何ですか?

弁護士:新規事業を検討している人が安心して事業をスタートできるように、あらかじめ規制の有無や解釈について役所に確認することができる制度のことです

男性:法律のグレーゾーンの部分について、シロかクロかはっきりさせてくれるってことですね。後から違法といわれてしまってはダメージも大きいですし、手続をお願いできますか?

弁護士:わかりました。制度の利用には準備も必要なので、制度の説明から順にしていきますね

根拠法は「産業競争力強化法」

グレーゾーン解消制度は、「産業競争力強化法」という法律で定められている制度です。同法は、バブル崩壊後の長期にわたる日本経済の低迷からの脱却を目的に平成25年(2013年)に成立した法律で、新たな事業活動の創造につながる規制改革を推進するための措置など、産業競争力の強化のための制度について定めています。

規制改革関連の制度として同法では、①グレーゾーン解消制度(解釈及び適用の確認制度)、②新事業特例制度、③規制のサンドボックス制度(新技術等実証計画の認定制度)について定めています。

③規制のサンドボックス制度は、従来、「生産性向上特別措置法」(平成30年成立)に基づき一時的な制度として実施されてきましたが、令和3年(2021年)6月に産業競争力強化法に移管され、恒久的な制度となりました。

企業単位の規制改革

従来、「規制緩和」「規制改革」というと、経済発展の支障となっている制度を廃止し、多くの人がその恩恵を受けるというイメージでした。しかし、そのような大規模な規制改革を行おうとすると、関係者が多くなり、反対意見にも配慮しながら新しい制度を作ろうとすると、どうしても時間がかかりがちです。

そこで、いきなり全体の規制を緩和するのではなく、規制緩和を求める企業の個々の事業内容に即して、まずは企業単位で規制緩和を行い、そこで問題がなければ緩和の対象を広げるという形をとることにしたのです。

以下では、3つの制度について説明します。

グレーゾーン解消制度

グレーゾーン解消制度とは、新規事業を始めようとする事業者が事業活動に関する規制について定めた法律等の解釈を確認したり、当該新規事業に規制が適用されるかどうかについて確認することができる制度のことです(産業競争力強化法7条)。事業を始める前に法律等の解釈について確認することができるので、安心して事業を始めることができます。

過去の利用実績については、グレーゾーン解消制度の活用事例にまとめられています。
なお、グレーゾーン解消制度に基づいて得られた回答は、省庁が照会書の記載内容のみを前提として、照会時点における見解を示したものです。グレーゾーン解消制度が利用されるような、規制の範囲に含まれるかどうかギリギリの場面では、細かい事情の有無で結論が変わってしまうことがあります。活用事例でも似たような分野の照会が多いのはそのためです。自分の事業に当てはめるときは注意しましょう。

新規事業特例制度

新規事業特例制度とは、新規事業を始めようとする事業者に対してその支障となる規制の特例措置の適用を認める制度です。①規制の特例措置の整備を求める制度(産業競争力強化法6条)と、②創設された規制の特例措置を活用するために、新事業活動計画の認定を受ける制度(産業競争力強化法9条)に分かれています。
特例措置の活用が認められると、その事業者に対して規制が緩和されるので、これまで規制のために実施することができなかった、より実際の利用シーンに近い状況での実証実験などが行いやすくなります。

過去の利用実績については、新事業特例制度の活用事例にまとめられています。

規制のサンドボックス制度

規制のサンドボックス制度とは、参加者や期間を限定すること等により、既存の規制の適用を受けることなく、AI、IoT、ブロックチェーン等の革新的な技術やビジネスモデルの実証を行うことができる環境を整えることで、迅速な実証を可能とするとともに、実証で得られた情報・資料を活用できるようにして、規制改革を推進する制度です。

新規事業を始めようとする事業者は、新技術等実証計画の認定を受けることで、既存の規制の適用を受けずに実証実験を行うことができます(産業競争力強化法8条の2)。また、実証を行おうとする際、制約となっている現行法上の規制がある場合には、規制の特例措置の整備を求めることも可能です。

過去の利用実績については、規制のサンドボックス制度の活用事例にまとめられています。

コラム~「サンドボックス」って何?

上の説明で出てきた「サンドボックス」。耳慣れない言葉ですが、公園などにある「砂場」のこと。砂場の中で子どもたちは自由な発想で「世界」を作ることができますが、砂場の外には何の影響も与えません。そんな砂場と同様に、影響が及ぶ範囲を限定し、安全に配慮したうえで規制緩和という「実験」をすることができるようにしたのが、規制のサンドボックス制度なのです。

グレーゾーン解消制度での照会前に準備しておきたいこと

男性:グレーゾーン解消制度がどんなものなのか、よくわかりました。利用するためにはどうしたらよいのですか?

弁護士:グレーゾーン解消制度は、「私の事業に関係しそうな規制について調べたうえで問題ないか教えてください」という制度ではなく、照会する側で事業についてどのような規制がされているのかを特定したうえで照会する必要があります

男性:今回は先生に調査をお願いしましたが、法律もたくさんあるのに、調べるのは大変そうですね

弁護士:確かに大変ですが、調べ方のコツみたいなものはあるんですよ。それを説明しますね

事業計画を具体的に立てる

グレーゾーン解消制度を利用するためには、その事業が産業競争力強化法の「新事業活動」に該当する必要があります。
「新事業活動」といえるためには、

  • 新商品の開発又は生産
  • 新たな役務の開発又は提供
  • 商品の新たな生産又は販売の方式の導入
  • 役務の新たな提供方法の導入
  • その他の新たな事業活動

のいずれに該当し、生産性の向上又は新たな需要の開拓が見込めなくてはなりません(産業競争力強化法2条3項産業競争力強化法施行規則2条)。

グレーゾーン解消制度の照会書には、「新事業活動」に該当することを記載する必要があるため、事業の内容や今後の見通しについて具体的に記載する必要があります。つまり、事業計画を具体的に立てることがグレーゾーン解消制度を利用するための第一歩といえます。
どのようなことを書かなければならないのかについては、照会書の一部がグレーゾーン解消制度の活用事例で公開されているので、参考にするとよいでしょう。

関係しそうな法規や規制を洗い出す

次に事業計画に照らして関係しそうな法規や規制を洗い出していきます。行う事業によって関係する法令は様々ですが、探すためのヒントとして以下のようなものがあります。

業法

業法とは、特定の事業分野について適用される法律のことです。公共の福祉の観点から営業の自由に制約をかけるために制定されることが多く、事業を行うために許可や免許が必要とされることなどが代表例です。「○○業法」という名前であることが多いですが、当てはまらないものもあるので注意が必要です(例えば、飲食店の規制は食品衛生法で定められています)。

法律によっては、規制の詳細を「政令で定める」「○○省令で定める」としているものもあります。こうした場合、「○○法施行令」「○○法施行規則」もあわせて確認する必要があります。

法令の条文については、e-Gov法令検索を使うと調べることができます。

所轄省庁作成のガイドライン

主要な法律が改正されると、所管省庁からガイドラインや要領が公表されることがあります。これらは法令ではありませんが、所管省庁が法令の適用にあたってどのように考えているかを確認することができるので、法令の解釈を行ううえで参考になるでしょう。ガイドラインは随時改訂されるため、所管省庁のホームページなどから最新のガイドラインを取得するようにしましょう(ネット検索だと最新のものがヒットしない可能性があります)。

ガイドラインや要領は法令に関係する一般の人向けの資料ですが、所管省庁内部で運用の統一を図るために通達が出されることもあります。通常は通達の内容がガイドライン等に反映されるので、そこまで確認する必要はありませんが、関係しそうなものがあれば目を通しておきましょう。

業界団体・協会の自主規制

許可や免許が必要とされる事業では、事業者が集まって「○○業協会」のような業界団体が作られていることがよくあります。そういった業界団体が作成したガイドラインや自主規制は法令ではありませんが、所管省庁への問い合わせや処分事案などを通じて法令の解釈や運用についての事例をまとめたものともいえます。あらかじめ確認しておくとよいでしょう。

適用の有無について確認が必要な法律・規制を抽出する

洗い出した法規や規制の中から、適用の有無について確認が必要なものを抽出します。例えば、以下のようなものです。

  • 法令に「その他適切な方法」と記載されており、自社が提供しようとしているサービスが該当することを確認したい
  • 自社が行う事業は規制の対象となっている「○○業」には該当しないことを確認したい

照会書には、確認したい事項に加え、自己の見解も記載する必要があります。前の手順で確認したガイドライン等の文言を参考に論理的に説明できるようにしましょう。

法律を管轄する行政庁、業界団体・協会に問い合わせる

いきなりグレーゾーン解消制度を使って照会してもよいのですが、照会書の作成には手間も時間もかかります。新規事業を推進するという観点からは、より早く結論が出る方法があるのであれば、そちらを使うことも検討すべきでしょう。

直接問い合わせる

法律を管轄する行政庁に法律の適用に関する質問をすると、意外なほど快く回答してもらえます。業界団体や協会も同様です。ただ、相談窓口に日々寄せられるようなレベルを超えてしまうと、担当者によって回答が分かれてしまうこともあります。期待していた回答が得られなかったときは、上席の人に取り次いでもらうなどして、理由を明確にしてもらうようにしましょう。

問い合わせをしたときは、回答内容とともに問い合わせ日時や担当者の氏名などを控えておきましょう。照会書の作成時に相談実績として記載することで、手続がスムーズに進む可能性があるからです。

制度を利用する

ノーアクションレター制度の活用

これまで説明してきたグレーゾーン解消制度と似た制度として、ノーアクションレター制度(法令適用事前確認手続)があります。これは行政処分を行う行政庁が事業活動等に関する具体的行為が特定の法令の規定の適用対象となるかどうかについて回答する制度です。

ノーアクションレター制度とグレーゾーン解消制度の違い

グレーゾーン解消制度とノーアクションレター制度はよく似た制度ですが、主な違いは①対象となる法令と②照会先です。

ノーアクションレター制度の対象は、各省庁が指定した法令に限定されます。具体的には、違反行為に罰則が定められていたり、無許可営業になったり、業務停止などの不利益処分を受ける可能性があるものに限られています。これに対して、グレーゾーン解消制度の対象には制限がありません。

ノーアクションレター制度の照会先は規制を所管する省庁ですが、グレーゾーン解消制度の照会先は事業を所管する省庁(正確には大臣)です。両者が同じ省庁になることも少なくありませんが、IT企業が労働分野に関するサービスを新規で立ち上げる場合を想定すると、ノーアクションレター制度の場合は照会先が厚生労働省になりますが、グレーゾーン解消制度の場合は照会先が経済産業省になります。
事業者と規制所管省庁の間に事業所管省庁が入ることで、事業者の心理的ハードルも下がりますし、事業所管省庁によるサポートも期待できます。グレーゾーン解消制度が利用できるのは新事業活動に該当する場合に限られますが、事業者にとっては、グレーゾーン解消制度のほうが利用するメリットが大きいといえるでしょう。

グレーゾーン解消制度の照会手順

男性:準備も整いましたし、グレーゾーン解消制度を使ってみようと思います

弁護士:そうですね。それでは最後に照会の流れなどを確認しておきましょう

照会の流れ

上でも少し触れましたが、グレーゾーン解消制度の照会先は、事業を所管する大臣です。どの省庁が事業を所管しているかわからないときは、経済産業省に相談すれば適切な省庁を教えてくれます。経済産業省は本省に加え、各地方経済産業局にも相談窓口を設けています。

照会の流れは、以下の通りです。

  1. 事業所管大臣に照会書を提出
  2. 照会書を受け取った事業所管大臣は、規制所管大臣に対し、事業者から受けた確認事項を照会
  3. 規制所管大臣は、確認に対する回答を作成し、事業所管大臣に回答
  4. 事業所管大臣は事業者に対し、当該回答を通知

照会書の作成

照会書には、以下のような事項を記載する必要があります(産業競争力強化法施行規則6条様式第5)。準備段階で用意したものを整理して記載するようにしましょう。

  1. 新事業活動及びこれに関連する事業活動の目標
  2. 新事業活動及びこれに関連する事業活動により生産性の向上又は新たな需要の獲得が見込まれる理由
  3. 新事業活動及びこれに関連する事業活動の内容
  4. 新事業活動及びこれに関連する事業活動の実施時期
  5. 解釈及び適用の有無の確認を求める規制について規定する法律及び法律に基づく命令の規定
  6. 具体的な確認事項並びに規制について規定する法律及び法律に基づく命令の規定の解釈及び当該規定の適用の有無についての見解
  7. その他(事業所管省庁との相談実績など)

照会書の様式はこちらから、記入例はこちらからダウンロードすることができます。

事業を所管する省庁の窓口に照会書の原案を持参して相談することもできます。グレーゾーン解消制度においては、事業を所管する省庁が必要な情報の提供や助言を行うとされているので(産業競争力強化法8条)、活用していきましょう。

回答を得たら

照会書の提出から回答の通知までは原則として1か月以内とされており、間に合わないときはその理由を1か月ごとに通知することとなっています。

回答は他の事業者を含めた産業全体の新事業を促進する観点から公表されます。グレーゾーン解消制度創設時には非公表でしたが、平成30年改正で公表することになりました。
ただ、照会書は事業計画など公表されてしまうとライバルに模倣されてしまう恐れがある情報が含まれているため、照会者の同意があるときに限り、公表されます(公表時に部分的にマスキングすることもできます)。

回答によって、規制の適用を受けないことがわかれば、許認可等を受ける必要なく事業を行うことができます。逆に規制の適用を受けることがわかったときは、新規事業特例制度の利用を検討してもよいでしょう。その際も事業を所管する省庁のサポートを受けることができます。

まとめ

今回はグレーゾーン解消制度を中心に、新規事業を行う際に安心して事業を始めるために用意されている制度について紹介しました。これらの制度は弁護士のサポートを受けなくても利用可能ですが、事業に関係する法令の調査や照会書に記載する法令の解釈について過不足なく行うのは事業所管省庁の助言があっても難しいものです。自社だけの対応では不安なときは弁護士に相談してみるのもよいでしょう。


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