ブログやSNSなどの普及により情報発信の手段が格段に増えています。逆に、この様な形で発信された情報を活用する機会も増えました。昨今、著作権侵害は随分と身近な問題になったにも関わらず、それを認識している人は多くはなさそうです。ここでは著作権侵害の判断基準や要件、罰則について弁護士がわかりやすく解説します。
目次
著作権侵害が問題になる身近な事例
著作権侵害の事例
著作権侵害でニュースにたびたび取り上げられるのは、映画や漫画の違法コピーがサイトにアップロードされ、コンテンツ制作者が被害を受けているというものです。こうした海賊版問題については、
2021年1月に施行された改正著作権法では、違法にアップロードされた著作物であることを知りながらダウンロードした場合に損害賠償請求や刑事罰を受けることになる対象が,音楽・映像から全ての著作物に拡大されました。
今回の記事では、上記のような典型的な著作権侵害の事例ではなく、ブログなどで情報発信をしている企業の広報担当者や個人事業主が日常業務の中で遭遇しがちな著作権の問題について説明していきます。
まず始めに、以下のような事例は著作権侵害に当たるでしょうか?
- 真似しているとばれないように、「てにをは」を変えたり、一部の漢字をひらがなに変えたりした文章を会社のブログに掲載した
- 「商用利用可」と書かれたサイトに掲載されていた画像の一部を切り取って会社のホームページに掲載した
- 興味深い新聞記事があったので、該当部分をスマホのカメラで撮影し、その画像を添えてSNSに投稿した
- 自社の商品がテレビで紹介されたので、その映像をキャプチャして会社のホームページで紹介した
- 官公庁が発表している白書の一部を「○○白書によると」と記載して会社のブログに転載した。官公庁には許可を取っていない
いずれも現場で遭遇しやすい事例だと思いますが、著作権侵害の基準に照らして判断していきます。
著作権侵害とは何か
著作権侵害が成立する5つの要件
著作権侵害が成立するには、以下の5つの要件をすべて満たす必要があります。
- 著作物である
- 著作権が存在している
- 著作権の効力が及ぶ範囲で利用されている
- 利用者が著作物利用について正当な権原を有していない
- 権利侵害がある
まずは、それぞれの要件について簡単に確認しておきましょう。
1.著作物である
著作物とは、著作権の保護の対象となるもののことです。映画や漫画、音楽や小説などが該当します。
2.著作権が存在している
著作物であっても、著作権が存在しないものもあります。例えば、憲法や法律、裁判所の判決などには、著作権がないとされています(著作権法13条)。
また、著作権には存続期間が定められており、それを経過してしまうと消滅してしまいます(著作権法51条~58条)。著作権の存続期間は、著作者の死後70年です。
3.著作権の効力が及ぶ範囲で利用されている
著作権法では、一定の要件を満たす利用に関しては著作権の効力が及ばないとされています。
例えば、批評をするために著作物を引用する場合は、一定の要件を満たせば著作権を侵害しません(著作権法32条)。
4.利用者が著作物利用について正当な権原を有していない
著作権者は著作物を利用したい人に対して、利用許諾を与えることができ、利用者はその範囲内で著作物を利用することができます(著作権法63条)。逆に言えば、利用許諾を受けずに勝手に著作物を利用すると、著作権侵害になるわけです。
5.権利侵害がある
元の著作物に依拠して、元の著作物と類似した著作物を利用している場合は権利侵害があることになります。
元の著作物とは無関係にたまたま類似した著作物を創作して利用する場合は、権利侵害にはなりません。
元の著作物に依拠していても、創作した著作物が元の著作物と全く違うものになっている場合は、類似性の要件を満たさず、権利侵害にはなりません。
何が著作物にあたるのか
著作物である
著作権法では、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義されています(著作権法2条1項1号)。
この定義からは、高度な創作性が要求されるように思えますが、作者の個性が発揮されているものであれば,一般に著作物に該当します。
「思想又は感情」とは
何が保護に値する「思想又は感情」なのかを定義することは難しいですが、例えば「○月×日東京は雨だった」という事実そのものを著作権で保護し、他の人は同じ表現ができなくなってしまうとすると、表現活動の大きな制約となってしまいます。そこで、単なるデータや事実は著作権の保護の対象から除かれます(著作権法10条2項参照)。
「創作的」とは
上で単なる事実は著作物ではないと説明しましたが、その事実を独創的な表現で表した場合、それは著作物となりえます。そこにはその表現をした人の個性が発揮されているからです。過去の事例では、ニュースサイトの見出しが創作性を否定され著作物と認められなかった一方で(「ヨミウリ・オンライン」事件)、交通安全のスローガンや俳句、短歌などは、たとえそれが短くても創作性が認められています(「交通安全スローガン」事件)。
この要件によって、他の著作物のコピーや単なる模倣は著作物から除かれます。
「文芸、学術、美術または音楽の範囲」とは
著作権の保護の対象として、音楽や小説、絵画といった芸術作品が含まれるのはイメージしやすいと思いますが、自動車や「デザイナーズ家電」と呼ばれるような、美しいデザインの工業製品は著作権の保護の対象となるのでしょうか。このような工業製品のデザインについては、意匠法という法律で別に保護されています。そのデザインが、工業製品として通常想定されるデザインを超えて作者の個性が発揮されていると言える場合には、著作権法で保護される可能性もあります。
「表現」とは
最後に「表現」とは、字のごとく、現実に外部に表(現)したものが著作権の保護の対象となります。頭の中で「アイディア」として持っているだけではダメで、実際に文章や音楽、イラストの形にしなければなりません。ベストセラー小説を読んで、「この小説よりも先に自分も同じストーリーを思いついていたのだから、著作権で保護してほしい」と主張しても認められないのです。
著作物に該当するもの、しないもの
著作権法10条は、著作物の例として、以下の9つを挙げています。
- 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
- 音楽の著作物
- 舞踊又は無言劇の著作物
- 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
- 建築の著作物
- 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
- 映画の著作物
- 写真の著作物
- プログラムの著作物
上記はあくまで例示で、上記の4要件を満たせば、著作物として保護されます。
他方で、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」は著作物に該当しないとしています(同条2項)。
また、プログラムは著作物に該当するとしている一方で、プログラミング言語や規約(プロトコル)、解法(アルゴリズム)は著作物に該当しないとしています(同条3項)。
著作物を無断利用できる場合
基本的にはそうですね。ただ、一定の場合には権利者(著作者)の許諾を得ることなく利用できる場合があります
著作権は無制限に主張できる権利ではありません。著作権法の目的に「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」(著作権法1条)が掲げられているように、著作者の権利に配慮しつつ、上手に利用し、文化の発展を図ることが求められているのです。
著作権法では、30条から50条で著作権を制限される場合を示していますが、その中でもよく利用されているものについて、説明します。
私的使用
著作物を私的に使用するために複製することは、権利者(著作者)の許諾を得ることなく行うことができます。
この「私的に」とは、自分自身や家庭内など、ごく限られた閉鎖的な人間関係の中で使用することを想定しており、何人もの友人のためにCDをコピーするとか、会社内で共有するために新聞記事をコピーするといった行為は、私的利用の範囲を超えており、著作権侵害となります。
また、たとえ私的使用の範囲内であっても、コピーガードを解除してコピーすることや、違法にアップロードされていることを知りながら、音楽や映像、漫画等をダウンロードし、自分の手元に置く行為は私的使用とはいえず、著作権侵害となります。
教育の場での使用
学校の授業で使う資料をコピーして配布をしたり、試験問題として利用するために小説をコピーするような場合は、権利者(著作者)の許諾を得ることなく行うことができます。教育という公共の目的のために、著作権を制限しているわけです。
ただし、予備校や学習塾のような、営利目的で教育を行っている組織の場合、そこで得られた利益の一部は著作者に還元すべきと考えられることから、例外には該当しません。
引用
批評や報道、研究を行うためには、過去の作品や論文を引用することが欠かせません。そのため、引用についても権利者(著作者)の許諾を得ることなく行うことが認められています。
ただし、引用部分が大半で、自説の部分がほとんどないような場合、実質的に引用した著作物の改変と変わらなくなってしまいます。そこで、著作権法では、①公正な慣行に合致するものであること、②引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものであること、を満たすことを条件に、引用を認めています(著作権法32条1項)。
より具体的には、引用部分を括弧で括るなど明確にすること、質的にも量的にも引用部分が「従」であることなどが求められます。
転載
国や地方公共団体などが作成した広報資料や統計資料、白書などは、転載禁止の表示がない限り、特に許可を得る必要なく、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができます(著作権法32条2項)。
この条項で認められているのは刊行物への転載ですが、各省庁は出典を明記する等のルールを守ることを前提に、ホームページに掲載されている内容について、複製、公衆送信、翻訳・変形等の翻案等についても、自由に利用できるようにしています。
著作権侵害の具体的判断
判例
新聞記事を要約し、英語に翻訳し配信した事例(「日経新聞記事要約翻案事件」)
「客観的な事実を素材とする新聞記事であっても、収集した素材の中からの記事に盛り込む事項の選択と、その配列、組み立て、その文章表現の技法は多様な選択、構成、表現が可能であり、新聞記事の著作者は、収集した素材の中から、一定の観点と判断基準に基づいて、記事に盛り込む事項を選択し、構成、表現する」のであり、「そこには著作者の賞賛、好意、批判、断罪、情報価値等に対する評価等の思想、感情が表現されている」として、著作権侵害を認めています。
交通安全のスローガンに著作物性が認められた事例(「交通安全スローガン事件」)
「ボク安心ママの膝よりチャイルドシート」というスローガンが「ママの胸よりチャイルドシート」と類似しているとして、著作権侵害を主張した事例について、創作性を認めたものの、類似性は認められないとして著作権侵害を否定しました。
注意が必要な身近な事例
では、冒頭の事例について、著作権侵害に該当するかどうか、検討していきます。
真似しているとばれないように、「てにをは」を変えたり、一部の漢字をひらがなに変えたりした文章を会社のブログに掲載した
⇒著作権侵害に該当する
他人の文章は通常著作物であると考えられます。「てにをは」を変えたり、一部の漢字をひらがなに変えたりしただけでは、読者が元の著作物であることを感得できますので、著作権(複製権,公衆送信権)侵害に当たります。
著作物を権利者(著作者)の許諾を得ることなく変更して公開する行為は、著作者に認められている権利の一つである「同一性保持権」を侵害しているため、著作権侵害に該当します。
なお、元の文章がありふれたもので創作性が認められない場合、著作物ではないため、無断改変しても著作権侵害に該当しないことになります。
「商用利用可」と書かれたサイトに掲載されていた画像の一部を切り取って会社のホームページに掲載した
⇒著作権侵害に該当する
公開されている画像の一部を切り取って利用する行為は、同一性保持権の侵害となるため、著作権侵害に該当します。
「商用利用可」というのは、画像の利用方法として、会社のホームページやカタログ等、営利目的で作成される媒体に使用してもよい、という許可をあらかじめ与えていることになります。このような場合であっても、「画像の編集可」と書かれていなければ、無断編集は著作権の侵害となります。
フリー画像サイトに掲載されている画像を利用する際には、許可の範囲を確認するようにしましょう。
興味深い新聞記事があったので、該当部分をスマホのカメラで撮影し、その画像を添えてSNSに投稿した
⇒著作権侵害に該当する
新聞記事の一部をスマホのカメラで撮影して保存するだけであれば、私的使用の範囲内なので著作権侵害となりませんが、その画像を添えてSNSに投稿することは私的使用の範囲を超えるため、著作権侵害(公衆送信権の侵害)となります。ただし、引用(著作権法32条)の例外はありえます。
記事を紹介したいのであれば、その記事のURLをシェアするとよいでしょう。
自社の商品がテレビで紹介されたので、その映像をキャプチャして会社のホームページで紹介した
⇒著作権侵害に該当する
商品自体の権利は自社にあるかもしれませんが、それをどのように撮影するか、どのように取り上げるかは放送局が判断して制作しているといえるため、その映像の著作権は放送局のものです。権利者(著作者)の許諾を得ることなくキャプチャして会社のホームページで紹介する行為は、著作権侵害(公衆送信権の侵害)となります。
官公庁が発表している白書の一部を「○○白書によると」と記載して会社のブログに転載した。官公庁には許可を取っていない
⇒著作権侵害に該当しない
著作権法上の「転載」(著作権法32条2項)であれば、官公庁が発行している白書については認められているため、官公庁に許可を取る必要はありません。官公庁は白書について、出典を明記することでブログ等への転載(公衆送信)を認めているため、今回の事例に関しては著作権侵害に該当しないことになります。
著作権侵害をされたら
民事上の責任
著作権侵害に対する民事上の責任としては、①差止請求、②損害賠償請求、③名誉回復等の措置請求、が考えられます。
差止請求
ホームページ等で自社が権利を保有する著作物の無断掲載が判明した場合、最初にすべきなのは、掲載をやめさせることです。著作者は権利を侵害し、または侵害しようとしている者に対して、その侵害の停止、または予防を請求することができます(差止請求権。著作権法112条)。
まずはこの差止請求権に基づいて、ホームページ等の運営者に対して直ちに無断掲載を止めるように求めましょう。問い合わせフォームや公開されているメールアドレスから要求してもよいですが、「届いていない」「見ていない」と反論されることを防ぐため、可能であれば住所を特定し、配達証明付き内容証明郵便で請求したほうがよいでしょう。
差止請求をしたにもかかわらず、相手方が掲載をやめず、損害が拡大し続けるような場合には、裁判所に侵害停止を求める仮処分を申請することもできます。
損害賠償請求
次に無断使用に対する損害賠償請求を行います。著作権侵害によってどのくらいの損害が発生したかを算定するのは難しいですが、著作権法は損害額についての算定方法を3つ用意しています。
①侵害者が譲渡等した複製物の数量×著作権者が得ることができたはずの単位数量当たりの利益の額
侵害者が海賊版を制作し、販売していたようなケースでは、海賊版の販売数に本来著作権者が得ることができたはずの1本当たりの利益を掛け合わせて損害額を算定します(著作権法114条1項)。
②侵害者が侵害行為によって受けた利益の額
侵害者が海賊版の販売で200万円の利益を得ていた場合、この200万円を損害額と推定します(著作権法114条2項)。
③著作権者が得られるはずだった利益の額
著作権者が著作物の使用を許諾する場合の使用料相当額を損害額と算定します(著作権法114条3項)。
上記の方法による損害賠償の請求とは別のアプローチとして、著作権の侵害者は、その侵害行為によって利益を得たり、損害を免れたりしたといえるため、その額について不当利得返還請求をすることができます(民法703条)。
名誉回復等の措置請求
著作権の侵害により、世間の人が侵害者が著作者であるかのように誤解したり、本来の著作者が侵害者であるかのように誤解してしまうことがあります。そのようにして失われてしまった著作者の名誉を回復するために、著作者は侵害者に対して名誉もしくは声望を回復するために適当な措置を請求することができます(著作権法115条)。
具体的には、謝罪広告の掲載などを求めることになります。
この名誉回復等の措置請求は損害賠償請求とは別に行うことができます。
刑事上の責任
上記は民事上の責任ですが、これとは別に刑事上の責任を追及することができます。著作権侵害には、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、またはその両方の刑に処せられるものがあります(著作権法119条)。また、法人の代表者が著作権を侵害したときは、法人も3億円以下の罰金刑に処せられることがあります(著作権法124条)。
著作権侵害の多くは、著作権者の告訴がなければ罪に問うことができないため、侵害者の処罰を求めるときは、警察・検察に対して告訴する必要があります(著作権法123条)。
著作権侵害をしないために
著作権侵害のペナルティは権利意識の高まりから年々厳しいものとなっています。権利者(著作者)の許諾を得ることなく著作物を使用することで一時的に出費を免れることができたとしても、著作権侵害を指摘されてしまうと、金銭面だけでなく信用面でも大きなダメージを受けることになります。
従業員教育などを通じて、著作権に対する理解を高め、著作物の適切な利用について徹底するほか、著作権侵害のリスクを認識したときには早めに弁護士に相談することをおすすめします。
監修
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