昨今のコロナ禍においてネットビジネスの需要が増しています。オンラインショップの開設あるいはインターネットオークションに出品者としての参加を考えている方はぜひ、通信販売に適用される特定商取引法で何が規定されているのか、それに違反した場合にどの様な罰則があるのか、このページで理解を深めて頂ければ幸いです。
目次
特定商取引法とは
男性:コロナ禍で店舗の売上が減少してしまい、当社でもネットショップを開設しようと考えています。何か注意すべきことはありますか?
弁護士:注意すべきことはいろいろありますが、まずは特定商取引に関する法律(特定商取引法・特商法)を確認しておきましょう。できるだけわかりやすく説明しますね。
特定商取引法は何のためにあるのか?(目的)
特定商取引法1条は、特定商取引法の目的について、「この法律は、特定商取引(中略)を公正にし、及び購入者等が受けることのある損害の防止を図ることにより、購入者等の利益を保護し、あわせて商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にし、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」としています。
もう少しわかりやすく言い換えると、トラブルが生じやすい商取引の類型について、商品・サービスの購入者が損害を受けることがないようにルールを定めることで、経済の健全な発展を図ること目的としています。
このような目的で法律が作られているため、社会的に問題となった取引手法が後から規制対象に追加されることもあります。
特定商取引法は何を規制するのか?(対象)
上で説明したように、特定商取引法はトラブルが生じやすい商取引の類型について、ルールを定めています。具体的には、①訪問販売、②通信販売、③電話勧誘販売、④連鎖販売取引、⑤特定継続的役務提供、⑥業務提供誘引販売取引、⑦訪問購入、の7つの商取引についてルールを定めています。
それぞれの商取引について、簡単にみていきましょう。以下の説明で出てくる「事業者」とは、商品やサービスを販売・提供する者のことです。
訪問販売
訪問販売は、事業者が自分の営業所の外で商品やサービスを販売・提供する契約を締結する取引のことです。消費者の自宅に訪問して行うケースが典型的ですが、路上で呼び止めて営業所に連れていくケース(キャッチセールス)、電話やSNS等で「プレゼントに当選したので取りに来てほしい」「アンケートにご協力ください」な等と販売の目的を隠して営業所に呼び出すケース(アポイントメントセールス)も訪問販売に含まれます。
通信販売
通信販売は、事業者が、新聞、雑誌、インターネット等で広告し、郵便、電話、インターネット等の通信手段により申込みを受ける取引のことです。事業者が電話で購入を勧誘する取引は、次の電話勧誘販売に該当するので、通信販売からは除かれます。
電話勧誘販売
電話勧誘販売は、事業者が消費者に電話をかけ、商品・サービスの購入を勧誘し、申し込みを受ける取引のことです。その場で申し込む場合だけでなく、後から郵便、電話等で申し込みを行った場合も、電話による勧誘によって消費者が購入の意思を固めた場合には、電話勧誘販売に該当します。
連鎖販売取引
連鎖販売取引は、個人を販売員として勧誘し、更にその個人に次の販売員の勧誘をさせるというかたちで、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品・役務の取引のことです。紹介料などの利益を得るために入会金などの費用負担を必要とし、「マルチ商法」や「ネットワークビジネス」とも呼ばれます。具体的には「3万円でこの会に入会し、他の人を勧誘して入会させると1万円の紹介料がもらえます。4人以上勧誘できれば儲かりますよ」というようなものです。
特定継続的役務提供
特定継続的役務提供は、長期間、継続的にサービスを提供する取引のうち、高額な対価を要するものをいいます。現在、エステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、結婚相手紹介サービス、パソコン教室の7つの役務が対象とされています。
業務提供誘引販売取引
業務提供誘引販売取引は、「この研修を修了すると、お仕事を紹介しますよ」「パソコンを購入すると、ホームページ制作のお仕事を紹介しますよ」というように、商品・サービスを購入することで利益が得られるとして勧誘する取引のことです。
訪問購入
訪問購入は、消費者の自宅など事業者の営業所以外の場所で物品の購入を行う取引のことです。最近増えている「出張買取」がこれにあたります。
以下では、通信販売について詳しくみていきます。
特定商取引法における通信販売
男性:特定商取引法が対象としている取引についてはわかりました。ネットショップを開設する場合には、具体的にどのあたりを注意したらよいでしょうか?
弁護士:それでは特定商取引法で通信販売についてどのように定めているか、確認していきましょう。
通信販売とは
通信販売とは、「販売業者又は役務提供事業者が郵便その他の主務省令で定める方法により売買契約又は役務提供契約の申込みを受けて行う商品若しくは特定権利の販売又は役務の提供であつて電話勧誘販売に該当しないものをいう」とされています(特定商取引法2条2項)。
条文では、消費者が郵便などの方法で商品・サービスの購入を申し込むような取引を通信販売と定義していますが、消費者が商品・サービスの内容や申込方法について知る機会がなければ、そもそも申し込むことができません。そのため、広告は大事ですから、特定商取引法における通信販売の規制のうち、広告に関する規制には特に気を付ける必要があります。。
通信販売で対象となるもの
ここで改めて特定商取引法における通信販売として、規制の対象となる取引について確認しておきましょう。
通信販売は、①「販売業者または役務提供事業者」が②「郵便等」によって売買契約または役務提供契約の申込みを受けて行う③「商品、権利の販売または役務の提供」のことをいいます
まず、①については、商品の販売やサービスの提供を業として営む者を意味します。「業として営む」とは、営利の目的をもって反復継続して取引を行うことをいいます。会社に限らず、個人であっても、ネットショップを運営しているような場合には、①に該当することになります。
次に、②については、郵便、信書便、電話、ファックス、電報、業者が指定する預金口座への振込などが含まれるとされています(特定商取引法施行規則2条)。電子メールやホームページの申込フォームからの申込について明記はされていませんが、特定商取引法施行規則2条の「通信機器又は情報処理の用に供する機器を利用する方法」に含まれると考えられています。
最後に③ですが、商品の販売や役務(サービス)の提供はイメージしやすいと思います。「権利」には、リゾート会員権やゴルフ会員権、映画やコンサートのチケット、株式会社の株式等が含まれます。
なお、営業のため、または営業として契約するもの等については、上記の定義で通信販売に該当しても、特定商取引法の規制が適用されません。例えば、企業が商品・サービスを購入する場合は適用されませんし、個人であっても、個人事業主が業務に必要なものを通信販売で購入したような場合には適用されません。
通信販売の具体例
- 新聞広告に掲載されている健康食品を電話受付で販売する
- カタログに掲載されている衣料品をファックス受付で販売する
- コンサートのチケットを郵便受付で販売する
- 音楽配信サービスをインターネットで販売する
通信販売で注意すべきこと(規制内容)
特定商取引法における通信販売に該当する場合、事業者はどのようなことに注意すればよいのでしょうか。広告に関することと契約に関することに分けてみていきましょう。
広告に関すること
特定商取引法で定めている通信販売の広告に関する規制は、以下の3つです。
- 広告の表示(事業者の名称、連絡先、価格・送料などを明示する)
- 誇大広告等の禁止
- 未承諾者に対するメール・ファックスによる広告の禁止
それぞれの規制について、詳しくみていきましょう。
広告の表示
通信販売の場合、広告に表示されている内容しか判断材料がありません。そのため、特定商取引法では、広告に表示すべき事項を定めています。
- 商品・サービスの料金、送料
- 料金の支払い時期、方法
- 商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期)
- 返品に関する事項
- 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
- 代表者の氏名または通信販売の業務の責任者の氏名(インターネットで広告する場合)
- 申込みの有効期限があるときには、その期限
- 料金、送料等以外に購入者等が負担すべき金銭があるときには、その内容およびその額
- 引き渡された商品が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合の販売業者の責任についての定めがあるときは、その内容
- いわゆるソフトウェアに関する取引である場合には、そのソフトウェアの動作環境
- 商品の売買契約を2回以上継続して締結する必要があるときは、その旨及び販売条件
- 商品の販売数量の制限等、特別な販売条件があるときには、その内容
- 請求によりカタログ等を別途送付する場合、それが有料であるときには、その金額
- 電子メールによる商業広告を送る場合には、事業者の電子メールアドレス
ネットショップなどで「特定商取引法に基づく表示」として、上記の項目について表示されているのを見たことがある方も多いのではないでしょうか。
上記の規制は広告媒体を問わないので、新聞・雑誌、カタログ、テレビCM、折込チラシ、インターネット上のホームページなどにも適用されます。
このような説明を聞くと、「テレビCMでそんな詳しい情報を見たことがない」「インターネットのバナー広告はどうなの?」と思われる方もいるかもしれません。
スペースや時間の都合で全てを表示することができないときは、必要事項を記載した書面(または電子メール等)を提供することを広告に掲載し、実際に提供できるようにしておけばよいとされています。テレビCMで「詳しくは折込チラシで」とか「詳しくはウェブで」と言っているのはそのためです。バナー広告の場合は、リンク先を一体として広告とみなすので、リンク先に必要事項が記載されていれば問題ありません。
ただ、申込みの撤回又は売買契約の解除に関する事項等については「顧客にとって見やすい箇所において明瞭に判読できるように表示する方法その他顧客にとって容易に認識することができるよう表示すること」と定められていますので、注意しておく必要があります。
ネットショップなどで使える特定商取引法に基づく表示のフォーマットは、後ほどご紹介します。
誇大広告等の禁止
特定商取引法は、広告の表示事項等について、「著しく事実に相違する表示」や「実際のものよりも著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示」を禁止しています。
例えば、「食事制限不要ですぐに痩せます」とか「今なら半額」と表示しながら、実際には常に同じ金額で販売しているような場合は、誇大広告等に該当します。
未承諾者に対するメール・ファックスによる広告の禁止
事前に承諾を得ていない顧客以外にメールやファックスで広告を送信することは禁止されています(オプトイン規制)。
「契約の成立」「注文確認」「発送通知」などの重要な通知の一部に広告が含まれる場合等は規制の対象外となります。
契約に関すること
特定商取引法で定めている通信販売の契約に関する規制は、以下の3つです。
- 前払式通信販売の承諾等の通知
- 契約解除に伴う債務不履行の禁止
- 顧客の意に反して契約の申込みをさせようとする行為の禁止
それぞれの規制について、詳しくみていきましょう。
前払式通信販売の承諾等の通知
先に料金を支払うタイプの通信販売の場合、消費者としては商品がいつ届くのか不安になります。そこで、事業者に対して、料金の受取年月日や金額、商品の引渡時期等について、書面やメールを送ることを義務付けています。
契約解除に伴う債務不履行の禁止
通信販売の申込を撤回した場合に、消費者は商品を返却し、事業者は料金を返還しなければなりませんが、特定商取引法は事業者が料金の返還を拒否したり、遅延したりすることを禁止しています。
顧客の意に反して契約の申込みをさせようとする行為の禁止
インターネット通販でどのボタンを押したら購入・有料契約の申込になるかわからないような表示は、「顧客の意に反して契約の申込みをさせようとする行為」として禁止されています。
具体的には、「注文を確定する」といった最終的な申込であることが明示されたボタンを設置することが求められています。
インターネットオークションにおける特定商取引法の適用
最近では、インターネットオークションやフリーマーケットサイトで不用品を売る個人が増えています。中には商品になりそうなものを仕入れてきて転売している人もいます。このような個人に特定商取引法は適用されるのでしょうか。
個人であっても、営利目的で反復継続してインターネットオークションやフリーマーケットサイトで出品している場合には、特定商取引法の事業者にあたることになります。インターネットオークションやフリーマーケットサイトは形態としては通信販売となるため、上で説明したように、広告に必要事項を表示したり、誇大広告が禁止されたりします。
消費者庁では、インターネット・オークションにおける「販売業者」に係るガイドラインを公開し、どのような場合に事業者に該当するかの目安を示しています。例えば、パソコンを同時に5点以上出品していたり、映画やコンサートのチケットを同時に20点以上出品しているような場合には、個人であっても営利目的で反復継続して取引を行っている事業者に該当する可能性が高いとされています。
特定商取引法に違反したら・・・
男性:注意すべきことって、たくさんあるんですね…。これだけ多いと、うっかり違反してしまいそうです。もし特定商取引法に違反すると、どうなってしまうのでしょうか?
弁護士:特定商取引法に違反してしまうと、重い処分が待っています。事業を始める前に弁護士に確認してもらったほうがいいですよ。
課せられる行政処分と罰則、差止請求
特定商取引法に違反した場合のペナルティには、①行政処分、②罰則の2種類があります。
行政処分
行政処分には、①特定商取引法に違反した行為を是正するように求める是正指示、②通信販売に関する業務の停止を命じる業務停止命令、さらに③業務停止命令を受けた企業の役員等が業務停止命令期間中に新たに通信販売を開始することを禁じる業務禁止命令の3種類があります。また、これらの行政処分がなされたときは、消費者被害の発生・拡大の防止や注意喚起のために公表されます。
罰則
行政処分がなされたにもかかわらず、それに違反して業務を行ったり、誇大広告を行ったときには、刑事罰が科されます。例えば、業務禁止命令に違反して業務を開始した場合、違反者には3年以下の懲役または300万円以下の罰金、あるいはその両方が科され、違反者が経営していた会社には3億円以下の罰金刑が科されます。
これまで多くの消費者被害が発生してきたことを踏まえ、それを防止するために、特定商取引法違反の罪は重いものになっているのです。
また、消費者被害の発生を防止するため、特定商取引法では、消費者保護団体に事業者の行為を差し止めることを認める、差止請求という制度を設けています。
差止請求
適格消費者団体は、事業者に対して行為の停止もしくは予防、その他の必要な措置をとることを請求できます。この請求は裁判によって行われ、2021年7月末時点で74の事業者に対して訴訟が提起されています。適格消費者団体の一覧はこちらから確認することができます(2021年7月末で21団体)。
特定商取引法違反被疑情報提供フォーム
消費者庁では、特定商取引法の対象となる7つの取引類型について、取引の公正や消費者の利益が害されるおそれのある事実に関する情報を受け付ける特定商取引法違反被疑情報提供フォームを設置しています。
フォームの説明文にもあるように、このフォームから情報提供しても、消費者庁が特定商取引法違反の契約の解除や返金の仲介をしてくれるわけではないので注意してください。
違反事例と処罰の実際
最後に、違反事例の具体例をいくつか紹介します。違反事例については、消費者庁の執行事例の検索ページから検索することができます。
電気とガスに関する電話勧誘販売の事例
電気の契約をしている消費者に対して「ご契約いただいております料金プランについてご連絡をいたしました。」と、ガスの契約を勧誘する目的を隠して電話をかけたり、必ず料金が安くなるとは限らないにもかかわらず、「従来プランと比べて、毎年1,200円お安くすることができます。」と事実と異なる説明をした事例について、再発防止策を講ずるとともに、コンプライアンス体制を構築することなどを指示するとともに、6か月間の業務停止命令を出しました。
化粧品の通信販売の事例
初回2,980円、2回目以降は12,000円の定期購入契約であるにもかかわらず、2回目以降の代金については確認画面の申込完了ボタンよりも下に他の文字に比べて著しく小さく記載するのみだった事例について、「顧客の意に反して通信販売に係る売買契約の申込みをさせようとする行為」に該当するとして、違反行為の発生原因について調査分析の上検証することなどを指示するとともに、3か月間の業務停止命令、前代表者に3か月間の業務禁止命令を出しました。
まとめ
今回は特定商取引法について、通信販売を中心にどのような取引が対象となるのか、どのような規制がなされているのかについて説明してきました。
コロナ禍で店舗での対面販売が厳しくなり、ネット通販を始めてみようかな、と考えられる事業者の方も増えているのではないでしょうか。初期費用無料でネットショップを開設できるサービスが登場し、以前より開業のハードルも低くなっています。今回の記事を参考に、特定商取引法対策を進めていただければと思います。
特定商取引法に基づく表示フォーマット
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顧問弁護士とは、顧問契約を締結した期間にわたって継続的に企業様の業務に対して法律上の助言を行う弁護士です。企業の法務部のアウトソーシングだとお考えいただくと、わかりやすいかもしれません。
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